昨日、友人のG-netの秋元氏より朝一番で「商店街にとってアーケードの存在はいいことですか、わるいことですか?」という直球勝負なご質問を頂いたのを発端にしてやりとりをさせてもらいました。それを少し加筆修正して掲載します。

商店街のアーケード問題ってもう長らくというか、僕が商店街に関わるようになった15年ほど前からずーっと言われている話で、「アーケードを撤去すべきかいなか」「アーケードを維持する資金を稼がなくてはならない」とか結局のところ、あれだけの巨大建築物の維持は頭痛の種だったりします。

しかも、知らない市民の方もいるのですが、アーケードの多くは商業者たちによって組織されている商店街振興組合が、組合員から負担金を集め、それだけでは足りないので主体的に補助金を国や市町村からもらいつつ、さらに高度化資金などの制度融資を受けて建設・管理しています。道路の上にあるので自治体が建てていると思っている人もいるみたいですが、基本的には違って、「商業者たちがお願いしているから建てさせている」というのが基本的な体です。

アーケードは数億円、数十億円と建設費がかかり、さらに毎年数百万円、数千万円の維持費がかかり、それらを商店街振興組合に加盟する組合員の分担金を原資に上記のような補助金と制度融資で建設費は補助しつつ、しかし維持費は商店街の自前で賄うという構造です。

近年の商店街加盟店舗の経営難の状況で、この分担金を支払うのが苦しくなってきており、それを原因で商店街振興組合から離脱する店も多く、新規加盟も低迷していたりもします。メリットはアーケードがあることと言われても、それだけの自分達の店の経営にプラスがあるとは思わないというわけですね。

さらに、商店街振興組合の理事は制度融資を受ける際に「連帯保証人」のはんこを押していたりします。つまりアーケードの巨額の負債の連帯保証責任を負ったりしているのです。正直、自分の懐に一切お金は入ってこない(というか出て行く)ものの連帯保証人というものをするというのは、経済原則的にアウトなわけですが、ま、それが慣例としてやってきました。新規理事にこの連帯保証責任を負わすとなると引き受け手がいないので、建設時の理事メンバーが死ぬまで負っている場合がありますが、それでも死んでしまったら新たな保証人をたてないといけないということもあり、理事の引き受け手が出てこないという問題も実はあったりします。ある商店街振興組合では解散するにあたり、理事長が多額の負債を支払ったということもありますし、破綻するにできずにリビングデッドになっている商店街とそのアーケードもあります。

恐ろしいことにアーケードは老朽化するので、お金がなくても朽ちていきます。結果として、朽ちたアーケードは公道上の危険なものになったりします。実際にアーケードやアーチなどが老朽化して、市民が下敷きになって怪我や時には死亡事故になったりもしています。

とまぁアーケードと商店街振興組合という構造は結構根が深かったりします。


◎秋元氏 : 商店街にとってアーケードの存在はいいことですか、わるいことですか?あるいはどういう場合には良くて、どういう場合には悪いですか?

■木下 : 私は商店街が自ら整備するアーケードは「貴族の設備」と思っています。とんでもない金額が常にかかり続ける巨大建築物だからです。だから、お金のありなしで判断します。

そもそも戦後の近代アーケードの発祥の地である北九州魚町は、朝鮮戦争特需でボロ儲けして、その資金の行き先がなくて、ひとまず小倉城を商業者の資金で再建して、さらにそれでも余ったから、アーケードを当時の建設省の許可無く勝手に立て始めたという経緯と聞いています。
なので、お金がありあまってる商業者が構成している商店街は、自分達ので判断してアーケードをしっかりと整備して、個別の事業者が持つ建築物では提供できない機能を皆で作るのはいいと思います。つまり、商品、価格、サービスなどの競争力は万全で、これをより強固にするための手段としてアーケードを作るって話ですね。

けど、お金ない事業者はアーケードみたいな直接的な投資対効果がみられにくい設備にお金投資するくらいなら、その資金を自分達の本業に対して投資すべきと思っています。新商品開発したり、店舗改装したり、従業員教育したり、ともっと資金を経営基盤の強化のために投資すべきです。

これとは別に、自治体とかが雪があるから中心部にアーケードが必要だとか色々と言うのであれば、社会資本整備としてちゃんとやればよくて、商業者の活性化とは全く関係ありません。イマドキ、屋根があるだけで買い物にくるなんて人は少ないし、その少ない人達のために数億円かかる設備に投資する投資対効果なんてありませんから。

今、全国各地でアーケードを撤去していっている商店街は沢山ありますので、僕はオープンモールにして、既存建築のまま若い人たちにリノベーションかけて店舗や住まいとかにしてもらうという形がやっぱりいいなーと思っています。自分としての実践的にも、その他の実例的にも。

◎秋元氏 : なるほどですねー、すでにアーケードがある場合にそれをかつようするのがよいのか、それとも撤去して各建物のリノベーションや再開発がしやすい状況を作るのが良いですか?あるいは、複数の振興組合で構成されている柳ヶ瀬で特定のかしょ、特定の組合のみが撤去をきめたことはどう評価すると良いのかしら?

■木下 : 基本、撤去ですね。未来まで負債施設であるアーケードを残すくらいなら、ここでいっきに取り払った方が、中期的に良い方向に向くと思います。ただ重要なのは、「アーケードを建てるとか維持するとか撤去する」というだけで、商店街はよくならないということです。

重要なのはそれぞれの不動産や店自体がどうその機会を皮切りに変わるのか、というのなしに、単に共有部分であるアーケードの話だけする方が空虚でもあります。あくまで補助機能であって、メインではないのです。特定の団体だけが決断できた、と評価すればいいと思いますよ。むしろ、皆でそれに続いて、全体的に撤去して、その上で各店舗や不動産が何するかという方が大切す。

最悪なのは、アーケード取り払って、その上でストリートの街路整備とかまたむちゃくちゃやって、けど、店とかはそのままでクソ、みたいなのは全くもって何も変わりません。税金を無駄遣いして終わりなだけと思います。アーケードの問題は商業としての諸問題を思考停止させる理由にはなりません。

あと、再開発を岐阜の商店街でもってのはもうないと思いますよ。まぁあっても商業ビルはなく、マンションとかに鞍替えしちゃうとかでしょうか。既に駅前であれだけやってて、郊外でも普通に新規開発物件はあるわけなので、まちの競争力を形成するには既存物件での対応を徹底して低コスト経営が実現できるところからスタートして、その後開発については検討したほうがいいです。

やはり今後、経済的に細っていく中で、撤去する補助金が活用できる自己資金があるうちに、僕としては普通に撤去をしたほうがいいかなと思います。とある商店街では、アーチが崩れて女子高生が下敷きになって亡くなられたり、その他の地域でも商店街振興組合が破綻し、その負債部分を理事長が負担されたり、と。アーケードをお持ちの商店街では連帯保証人のはんこを理事さんたちが押されていると思いますが、そういうことも起こりうる、ということで、せこい木下は早めにとれるものはとっておいて、その上でできることをちゃんと進めないと、後々大変なことになるというものを見てしまっているのでございますー。

だから、そんなカネは問題なくはらえるぞ、という商店街のみ使えばいい手段であると思っています。

◎秋元氏 : ところで、さらに疑問点。商店街活性化ってあたかも、社会問題のように語られ、地域のことだから税金を投入すべきだ、的な話になりがちだけれど、よくよく考えると、単に個店の商売、すなわち金儲けがそれぞれうまく行っていないというだけのことではないか?と。そこに金や資源を投入しまくるというのはどうなんでしょう?

もちろん、これまでの投資されたインフラを、集積して効率の良い部分を活用するために、とか高い地価エリアを維持することが税収上意義があるとかって指摘には一理あるとは思いますが。

■木下 : 2点あって、一つは秋元くん言われるとおりで、まちづくりというのは、その指定するエリアで不動産を保有する人たちの不動産経営上の問題であって、その不動産で商売をしているビジネス主体者の経営がうまくいかないという結果の問題だったりする。だから主体者たちが自分達で資金出しあってまちづくりをするのが筋なんですわな。逆に行政が本気出したところで、そのまちの土地のほとんどは私有財産。あーだこーだいっても私有財産を徴発して開発とかできないわけですから、本人たちが本気になるのが前提です。各国で取り組まれているBIDのモデルはその発想ですね。本気になった地主やビジネスオーナーたちが資金出しあうことの仕組みを行政がサポートするモデル。けど、日本では皆余裕があるから、別に衰退しても自分達の生活が直接的に困らない人も沢山あるので、なかなかうまくいかないのですよね。

一方で、社会コストの視点からやるところもあるようで、不動産オーナーたちがまちを放棄するとご指摘のとおりで税収的な問題が発生するとか、不良がたむろして悪いことが沢山発生するからというところもあるけど、結局は税収的にはは交付税で補完されたりしているからね。税収的の短期的な視点では、結局そこまで困っていない現状もあるし、そもそも税収を増やそうなんて行政マンは稀有です。適当にやってるというレベルすね。実際に、そんなに商店街活性化が社会問題とかいいつつも、そこまで多額の資金が投入されるまちの方が少ないです。

あとはまぁけど絵に描いた餅だけど、郊外に広がった機能を中心部に戻した方が社会コストが安くなるって話とかもあるけど、結局私有財産だから、莫大な再開発をしたり、公共施設と民間施設を併せてみたいな無理やりやる自治体もありますが、どんどんその施設は破綻しています。これで破綻していない施設は、こういう問題をすべて理解したメンバーがちゃんと仕掛けている一部のケースだけですね。大抵、再開発コーディネーターみたいなのにまるなげして、失敗。

どちらにしても、僕は一義的にまちの問題は物理的なエリアをしていする限り、不動産は切っても切れ話せないので、当事者である不動産オーナー、その物件を構成するビジネスオーナーが資金出しあったり、権利を考えなおすことなしにどうにもならないと思っています。事実そうですし。

結局タテマエの世界ですね。本気ではない。つまり結論、商店街や中心部が衰退しても、大して困っていないのがリアルかと。

◎秋元氏 : なるほどですねぇ。結局、意欲ある人たちがいないと始まらない、でもってその支援策としてはBID的なものがよいってこと?

■木下 : やる気にならせる政策とかはないって僕は思っているんですよ。なので、「やる気になっているグループにはこういう支援制度がありますよ」というのは、中心部であろとなかろうと行政がするのはまだよいけど、やる気になっている人たちのいる特定の地域に支援しているのは全く意味がないと思いますね。最後は全部税金でやってくれ、になるし。

だって意欲がない人の会社が潰れるのは当たり前だし、意欲のない地域が衰退するのも当たり前だし、それによって意欲のある人たちがあつまるまた別のまちが形成されたりして、そこから僕が楽しめるまちができたりする。ま、そういう流なのだと思います。長い目でみれば、決して悪いことばかりではないかなと。新陳代謝ですね。

◎秋元氏 : では、おうおうにして特定のエリアって考えると、意欲ある人たちがちょっといって残りは意欲がない、ってことが多いと思うのね。その場合は、やはりエリアを支援する施策をうつというよりも、リスクとってチャレンジしようと言う人たちに対して応援すべき、ってことだよね。

■木下 : まさに規定エリア、既存の組織、でやるのは難しい状況でございます。
なので、やる気のある1人のひとを軸にして3-5人程度のチーム作って、法人つくって、事業を仕掛けてしまうことが多いですね。ただ仕掛けるがわとしてはその後連鎖させていくというシナリオを作っておいて、後出しでどんどん攻めていく感じですね。

どちらにしても全部まとめようとか、商店街として活性化しないと個々は活性化しないとかないので、個々が勝手にやり始めることが大切だなと思ってやっとります。


毎週木曜配信「エリア・イノベーション・レビュー」のお申込みはこちら。

http://air.areaia.jp/