自治体による大型店規制-70年代と現代(福島県条例)を元に- | 経営からの地域再生・都市再生
今日からまた一週始まります。いよいよ冬といった空気で、今日は今年初めてマフラーを手に取ることになりました。午前中の大学院の経営組織の講義で出していたレポートが返却され、ひと段落です。レポートの内容としてはダイエーの90年代以降の業績不振に対する組織改変、特にカンパニー制度の導入廃止などの過程について書いたもので、このブログとも関係する流通系の内容なので、今度ここで話したいと思います。 六角橋商店街また、先週の金曜日には神奈川大学の中田信哉教授にお会いしてきました。物流などをはじめ、幅広く商業関係の研究されており、政府系の各種審議会での委員などを務められるなど政策面でも活躍されています。また著書も多いため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。元々が民間企業、民間研究所出身ということもあり、大変参考になるお話をお聞きできました。(□ロジスティクス入門□ 明日の宅配便市場など)その折に丁度、神奈川大学の最寄り駅である六角橋商店街のふれあい通りを初めてみました。(左写真・参照)仙台などを始め、大都市部でも一部かつての闇市がいまだに整理されずに残っているケースがありますが、飲食店などが中心なのを記憶しています。しかしながら、ここの場合には物販などもかなりあり、表通りにはない不思議な空間だと感じさせられました。 ■本日の主題「自治体による大型店規制」さて、もっとこのブログでも早く取り扱うべきだったのかもしれませんが、自治体に関する大型店出店規制について本日は取り上げられれば、と思います。先月、福島県議会にて「福島県商業まちづくりの推進に関する条例」が可決され、全国自治体から問い合わせが相次いでいるようです。以前このブログにおいて、基礎的自治体規模(市町村)で決定可能な大型店出店において、広域的調整などが広域自治体、もしくは政府などで必要なのか、必要な場合にはどのように可能であるのか、と書いたことがありました。また自治体による大型店規制は、70年代などにも見られました。当時の大型店は1500m^2未満の店舗を規制したため、自治体によっては自主的に条例や要綱を制定した(石原、2000)ことが言われます。当時は、大店法では規制しきれない中型店舗(200-300m^2以上など)とするものがあり、全国不統一な状況を打開すべく大店法の改正が行われた(第二次大店法)といわれています。 今回の福島県による規制アクションは広域自治体が、基礎的自治体の意思決定とは別に、大型店出店を規制しようとする内容であると理解できます。 まず今回の規制内容としては、しっかりと内容を見る必要があります。今回の規制を簡単にまとめると、 ?∥膩薪垢僚佚昂弉菽奮?(大規模小売店舗立地法手続きに先立つ形)での届け、説明会開催、を義務付け??県は内容を審議会等で審議会への諮問と答申を経て大型店側に建設予定地の変更などを事業者で通知??事業者は対応を県に報告?ぢ弍?が不十分な場合は勧告し、その事実を県報に掲載 という流れとなっています。まず百貨店法のような許可制や大店法のような届出制(きわめて許可制に近い)などの出店自体に対していの強制権があるものではないです。あくまで計画の届出と説明会等の開催といった、情報開示を義務付けるものであり、たとえ県の通知への対応策が不十分だと判断されても勧告されて、県法に通知されるだけと言えます。ただし、企業側も道義的な問題意識から、やはり自治体から歓迎されない道を選ぶことは行いにくいため、実際は上記の流れに可能な限り沿うことになると考えられます。 また出店自体を規制する意図というよりは、あくまで「郊外」から「中心市街地」に誘導することを狙っている内容と知事の発言なじからも伺えます。(細かい発言を見ると、あくまで郊外に出店するのではなく、中心市街地へ。という言葉があります。ただマスコミによっては削除されてしまっています。)ただし、事実上郊外への大型店出店への勧告というケースが予想されるため、近年の郊外SCの流れへの規制的色合いを持っていると言えます。 また、「大店法の復活」的な扱いをしているケースがあります。どうやら大店立地法への届けに際して事前に自治体側で協議するというのは、大店法時代を彷彿とさせるようです。ただし、大店法と異なる点としては、まず届出は出店予定地などの立地に限定された内容となっており、大店法時の事前調整4項目はどれも考慮対象となっていません。また、商調協(商業活動調整協議会)のように地元の商工会議所や商工会といった商業関連団体が事務局を担うものではなく、また構成も学識経験者などの専門家を中心とするようで、地元小売商業者の代表などは含まれる予定もパブリックコメントなどを見てもなさそうです。さらには事前商調協、事々前商調協といった、ある意味では公的規制の枠組み外で運用されて事実上の強制権を持つのではないか、という意見に関しては、大店法と同じ轍を踏むようにも思えません。 先般報道もされていますが、都市計画法の改正試案などを見ても、基本的に開発自体がまず住民に支持されるものであるか、という視点であるかと思います。かつてのような行政主導での規制制度ではなく、あくまで住民主体的な色合いが法律全般に強くなっているということを感じます。この時点で必要なのは、スケールとタイムスパンの2つの問題があると考えられます。前者は住民や政治決定を行う主体の規模の問題であり、後者は短期的スパンでの価値判断か、長期的スパンでの価値判断の問題と言えます。郊外大型店の開発では、地権者といったようなかつてのような関係者区分では不十分であることは言うまでもなく、立地する基礎的自治体だけでも不十分である実態があります。これらの場合に、自治体の意思決定、住民の意思判断をどこまでの範囲で問うべきなのか、も大変重要な問題となってきます。さらには、長期リスクをどれだけ測定できるか、というのも重要です。短期的には魅力的な店舗が来てくれることは住民(或いは消費者)にとっては歓迎すべきことで、基礎的自治体などにとっても固定資産税や地方消費税などは大変魅力的なものです。ただし、長期的には市場環境の変化、企業経営上の問題も含めて撤退などのリスクがゼロではありません。その場合にどのように影響が出るのか、その場合にはどのような対応策を講じるのか、なども同時に住民などに開示する必要があります。 今回の条例は大型店立地を中心市街地に誘導するという方法論を具体化したことは意味があります。これは、先般このブログでも紹介した、敬愛大学のbitaotao助教授の論文でも指摘されている、大型店と中小商業との共存関係から見ても、合理性のある施策です。ただし、大規模競争に入っている大型店からすると、競争局面を変えるようなインセンティヴが中心地にあるか、というか怪しいところではあり、事実上、立地を強制されるような形になっています。私としては今回の条例は、業態間競争論から離れて中心地に商業集積を集約するという意思決定を政治的にも行ったことは大きく評価できるものと思います。またこれまで戦略的な意思決定ができず、「郊外も開発する。しかしながら中心市街地活性化もする」という矛盾に満ちた政策をとってきた自治体とは異なり、明確に中心市街地への機能集中を図ろうとする姿勢が見て取れます。経済産業省などの戦略的中心市街地活性化などの方向性に沿うものであり、そのあたりも政府的からは特に歓迎される内容でしょう。今後、「郊外or中心市街地」の意思決定を迫られた際の意思決定の1ケースと言えるかもしれません。 その一方で、行政が専門家主導で出店への勧告などを行おうとするアプローチは、厳しい言い方をすると少々前時代的なものだとも考えます。今回の条例案は一定の評価を与えつつも、今回の条例は今後の実際の運用時に基礎的自治体の誘致合戦などにおいて、県という広域自治体がどのように立ち振る舞うのか、が大変興味深いものとなります。また実際に大型店がどのように対応するのかも、も注目ではあります。 郊外開発規制を行うことが、中心市街地活性化に寄与するロジックは長らく言われてきました。欧米各国の規制制度を見ても同様のものが見られます。ただし忘れてならないのは、業界内規制だけで産業が活性化するか、というと各国のケースを見ても、規制とともにさらに中心市街地側の自主的な土地利用の活発化や中小商業集積の再構築などを誘導する施策を講じています。何より、中心市街地地権者や中小商業主たちが活発に行動に出ています。 今回の条例はあくまで、無秩序な開発を制限するもので、商業を救うものではない、と明確に分かるようになっています。郊外大型店規制=中小商業を救う商業規制、と受け取られてしまうのは大変残念でのもあります。中心市街地側の商業主などもこのような制度が出来たからといって、「よかった救われる」などといったような意見を出しているのには違和感を覚えるところです。 現代の商店街の衰退は、商業における市場の変化とともに、大店法などの規制制度で守られてきたことで商業集積としての競争力が弱体化したとも言えます。自分たちがどうするのか、それが最も問われていることを忘れ、規制に縋ろうとしても消費者の支持は得られないのでしょう。その反映として、福島県に寄せられている意見の中には、イオンはじめ大型店が地方にもたらした魅力的な消費を支持する意見が出されています。商店街関係者も賛否両論の否定派の意見にも一理あることを忘れてはならないと感じさせられました。 明日は、規制の動きとともに進められる大型店への「地域貢献計画」の要求と、大型店出店企業のCSR活動について書きます。