「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は社会人の基本」と言われて久しいですが、私はそんなことはないと思っています。ホウレンソウが必要なのは、チームで意思疎通を互いに図りながら進めましょう、という意味としては納得がありますが、「部下が上司に常に報連相しなければならない」というような考え方が非効率だと思っています。あらゆる組織で、現状が上手くいかないから、報連相を徹底しろといって報告書を増加させたり、情報共有の名のもとに会議体を増加させたりして、結局は事業が回らなくなって墓穴ほってることが沢山見受けられます。そんなことを増加させても、寛容な仕事はうまく回らないです。単なる管理側の責任回避、精神安定剤であることがほとんどです。私はこれを「ホウレンソウ・シンドローム」と呼びます。
まちづくり事業の現場でも、またあらゆる事業の現場でも発生するのが、「報連相のコスト」です。上司からすると問題が発生する前に報連相を細かくしてもらわなければ管理できず、何かが起こった時に適切な判断や責任のとりようがないという考えがあります。チームが「情報は隠すのではなく共有するのが当たり前」というコモンセンスは正しいとは思います。しかしながら、何より上司は部下をうまいこと働いてもらって、チーム全体での生産量を大きくすることが何より優先される目標です。このためで説明に係るコストは可能な限り削減したほうがいいのです。
「報連相に係るコスト」には、上司にも部下にも、ついては組織全体にとっても2つのデメリットがあります。
まず1点目として、そもそもの事業にかける時間が削られてしまうことです。報連相を支えるのには、週一度の定例会議や、下手すると週報・日報みたいな話が出てきます。会議に向けた様々な資料を容易したり、報告書を策定するのに時間をかける場合、それなりに時間が費やされます。
1日1時間程度、説明書類を作成し、一週間(5日労働)で5時間。さらに定例やその他会議が週3時間とすれば、合計8時間になります。ほぼウィークデイ1日分の時間を説明に割くことになります。場合によってはこの資料だけでは分からない、とかになってしまったら、ますますもって資料作成に時間を取られていくことになります。
これでは、事業に割ける時間が徐々に少なくなり、内部の情報共有のため、ホウレンソウのために時間(つまりは労働コスト)が無駄に費やされることになります。
2点目として、チームのモチベーションが下がっていくことです。
チームとして働いているのに、管理する側、される側。説明する側、される側。という対立関係が発生し、何より内向きで批判されたり、何かを説明して、それに指摘されてというプロセスそのものがネガティヴなものです。同じチームなのに「理解していない」ことを前提とした関係で、いい仕事ができるとは思えません。徐々に内向きな説明会議に時間を費やしていくと、これまたモチベーションは下がる一方で、事業に悪影響が生まれます。
このように報連相にかけるコストは可能な限り下げたほうがいい、意思決定者は自分の会社や部署で報連相の徹底をすればするほどに、事業は上手くいかなくなると思います。
そのため、できるだけこれを最小化する方策を考えたほうがいいと思っています。意思決定者は自らの手を使って情報を把握し、迅速に決断していくことが仕事であり、部下に情報提出や説明を強要して彼らのリソースを使わないように尽力したほうが得策なわけです。
一貫して言えることは「業務の中でいつの間にか報連相ができているようにする」ことが重要であるということです。業務を進めることとは別に、報連相を要求してはいけない。だから業務を進めているとそのうちに報連相で必要と設定する情報が共有されているようにすることがマネジメント側の工夫のしどころとおもっています。説明しろ、と共有するのは誰でもできる愚行であることは先に述べたとおりです。
具体的な方策として大きく5点があると思います。
(1)意思決定者はチームのやりとりに常に参加する。
まず意思決定者は報連相で情報共有するのを止めるのが第一だと思っています。常にチームのやりとりについて参加し、社内での情報共有はグループウェアなどで皆でやることを徹底し、外部とのメールのやりとりはCC専用MLなどを用意して共有する。これで大抵のチームメンバーのアクションは相互に把握できるようになります。情報共有のために日報やら週報やらは全くいらなくなるでしょうし、それらよりも効果的に風通しはよくなります。
(2)口頭での会議は最小化し、ネットでやってしまう。
私は高校の時からネットの掲示板やIMなどで議論するのに慣れているので、口頭での会議よりもネットでやったほうが効率的だと思っています。それは2点あり、まずは皆が自分の都合のいい時間で議論に参加できるため固定的にまとまって時間を費やす必要がなく、誰かが暴走して語り始めてしまうような無駄な会議の時間に付き合う必要もなくなります。もう一つは、議事録が議論のプロセスごと分かるように完成するのです。「ここで議論したから見といて」とURL指定して、あとはコメントを寄せてもらえれば、たいていの議論はできてしまいます。
facebookのやりとりで教えて頂きましたが、アジャイル開発などではこのように各工程の作業量なども共有しながら進めたりするネットツールがあるそうです。口頭や固定的な議事録などでは無理なことがネットで可能になっていくことが沢山ありますね。
http://www.pivotaltracker.com/
(3)議事録など資料作成者担当を決めずに会議中に参加メンバーで共同で書き上げ、参加できなかったら人は自分で読んで把握する。
会議は可能な限りゼロにしようとしても、皆で話したほうが早いこともあるので開催することもあります。ただし、時間的・物理的に参加できない会議もあります。私なんかは遠方の組織と仕事することが多いため、常に物理的にはそこにいないことが多くあります。
こういう時にこれまでは「議事録担当」といって好き勝手話す人と、議事録とる人に分けて考えたりしていましたが、私は議事録は可能な限り意思決定者も含めて皆で作成すべきと思っています。議事録担当だけでは完璧なものは無理で、結局皆で確認して資料修正に時間かけたりします。私も様々な国の会議とかでも、議事録確認メールをもらって確認しているだけであっという間に時間が経つ非効率性を経験しています。議事録担当+皆で事後チェックというプロセスでは膨大な時間が無駄になっていきます。
そのため、議事録作成はgoogleDocsやグループウェアを開いて、皆で入って共同編集していくスタイルが一番ベストだと思っています。皆で意見を言ったらそこに記載していく。話ながら記載して、不足している点は補っていくという会話とメモのリンクです。これで大体終わりです。
最近ではSkypeなどもあるので、会議参加できない際も遠方から参加できる環境整備をしておくのもコストはほぼゼロに近いのでやっておきましょう。これであれば、先のgoogleDocsに遠方からも入れるので、自分も議事録作成に遠方からでもシームレスに参加できます。
(4)分からない時は意思決定者が聞きたい人に口頭で話を聞いて、資料を共同作成する。
基本的に上記3つの方法で、情報共有の基本体系を変えて、効率的に事業に集中出来る環境を作ることに徹するのが重要です。これによって、かなりチーム内で時間は効率化され、モチベーションが下がるような内向きの変な報告義務みたいなことも少なくなっていきます。さらに、意思決定者はそれでも分からない場合は「自分が悪い」と思って、聞きたい人に口頭で話を聞いて、資料は共同作成することです。
呼び出して「それでは不十分だ」みたいなことをいって作業させると、ますます事業進捗はしなくなって悪循環であることは前述のとおりです。ましては、検討委員会やら定例会議を増加させて情報把握のための会合増加させたら、ますますもって終わりです。
(5)それでも無理になったら、エンパワーメントすること。
何より大切なのは、意思決定に必要な情報というを上記のような形で効率的に意思決定者がプロセスに参画していくことに務め、分からななったら自分でやるというのが基本です。ただ「それでは仕事が回らない」という人は、圧倒的に自分だけで決めようとしている証拠と思います。自分が把握しきれない量の情報を収集しようとしているのであり、上記のようなプロセスが実現できない場合は能力の限界だと思って、エンパワーメント、権限を下に降ろす意思決定をすることです。もっと下でどんどん意思決定できるようにしなければ、恐らく仕事は回らないです。先のようにベストな意思決定をしようと下に報連相をどんどんさせれば、ますますもっと仕事が回らなくなりますから、効率的な方法は、自分たちで一定決められるようにし、肝心な意思決定に係るところを自分でやる。ただ細かな情報もオンラインで共有されていれば、自分次第で見に行くことはできる、という環境にすることです。
ま、こんなことを自分としては、自分が始めたまち会社、パートナーとして協業しているまち会社で実践しています。過去にそして今も私は商店街、NPO法人、生協、財団、政府機関、グローバル企業などで仕事をする機会を得てきていますが、これらにおいても共通して言えることだと思っています。管理側の精神安定のために報連相を強化するのではなく、本当に生産性を確保したいと思うなら、上記のような方策をとることです。ネットの登場によって飛躍的に情報共有は簡単になっていますから、これを活用しない手はありません。
んでもって、月1度でもいいので飯でも食いながら語り合いましょう。
情報共有の一番の壁は心の壁です。「あの人となんかわざわざ一緒に仕事したくない」と思うことが相互に発生していくと、どんな仕組みを入れても、どんないい事業をやろうと思っても、うまくいかないもんだと思っています。月一度に飯でも食いながら、酒を飲みながら「こうやっていこうぜ」「色々と大変だけど、ようやく次が見えてきたよね」「こないだ実はこんな人とあってさ」といいながら、話す時間を持つことが、情報共有の礎を醸成すると思います。
拙著「まちづくりの経営力養成講座」でも、組織設計やプロジェクトマネジメントなどの項目において、この点は結構強く記載しています。皆の信頼関係をしっかり構築することを第一として、事業に集中できること、モチベーションを高めることを視点において取り組むことが何より大切なのだと思います。
信頼関係のもとに、上記のような効果的なしくみを導入すれば、「ホウレンソウ・シンドローム」から脱却することが可能だと思います。
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